モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

社や旅館などにみられる日本の伝統的な庭園には四季折々の美しさがあり、心を落ち着かせる力があります。そんな庭を自宅にもつくりたい、と考える方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、デザインやメンテナンス、スペースの問題など、現代の住宅事情の中で和風庭園を実現するのは難しそうに感じられるかもしれません。
今回は、現代の住宅や人の暮らしにマッチする和風の庭づくりについてご紹介します。

1.和風の庭の構成とその魅力

伝統的な日本庭園は主に水、石、植栽、景物の4大要素で構成され、庭の形態から大きく3つのタイプに分類されます。

枯山水

水を使わず、砂と石で山水を表現
侘び寂びの美を強調
禅修行の場でもある

茶庭(露地)

茶室へ続く「道」としての庭
飛び石、つくばい、灯籠などを配置
自然の中を静かに歩む体験を重視

池泉庭園

池を中心にした広い庭
歩いて巡る池泉回遊式、船遊びを楽しむ池泉舟遊式、鑑賞を目的とした池泉鑑賞式などに分類される
公園や料亭庭園に多い

このように日本庭園とひと口に言っても様々な様式がありますが、四季折々の風景を楽しむ、静けさを感じ、心が落ち着く、心の豊かさをもたらすといったところは共通の魅力ではないかと思います。
日本庭園の特徴的な考え方のひとつとして、築山や石は山の風景、砂利や砂紋は川や水、というふうに自然の風景を小さく再現する「縮景・見立て」があります。
どこか心が落ち着くのは、日本庭園が美しい自然の風景を模したものだからなのかもしれません。

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

池泉庭園のひとつ 修学院離宮

2.現代の住宅と調和する和風×モダンのミックスデザイン

自宅の庭でも日本庭園のよさを楽しむためには、どんなふうに庭づくりを進めればよいのでしょうか。
ここからは和の要素を現代のモダンな住宅に溶け込ませる手法についてご紹介します。

1.簡素化する

伝統的なスタイルをそのまま再現しようとすると、現代の住宅には重厚すぎてアンバランスに感じられるかもしれません。
全ての要素を詰め込む必要はなく、伝統的な素材や構成をベースにしつつ、要素をそぎ落としてよりシンプルにすることでモダンな現代建築と調和しやすくなります。

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

灯篭や役石は省略し、シャープな直線デザインを取り入れた和庭の一角

2.要素を現代風に置き換える

日本庭園で用いられる竹垣や杉皮などの自然素材は経年変化により朽ちやすいのですが、そういった変化もまた情緒としてとらえられます。
ただ、住宅の庭の場合はメンテナンスの手間やコストはできるだけ抑えたいところ。従来竹や天然木が使われていたところは人工竹や人工木、アルミラッピング材などで代替するほうが維持しやすくなります。
また、縁側の代わりにウッドデッキを取り入れて、庭を眺めるだけでなくそこで過ごす要素をプラスすると庭の楽しみが一層広がります。
灯篭はガーデンライトに、水鉢をシャープなイメージのステンレス製に、など建物のテイストや今の暮らしに合わせて現代風の要素をうまく取り入れてみましょう。

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

YKK AP「リウッドデッキ 200 EG」

3.背景で引き締める

山が近いような立地では、庭の外の風景を庭の一部として取り入れる「借景」の手法が用いられることがありますが、住宅地ではそういった手法は使いづらくなります。
スクリーンフェンスや塀などでしっかり背景をつくって余計なものを覆ってしまうことで内側の庭の余白の美しさが引き立ち、同時に外からの視線をカットしてプライバシー対策も兼ねることができます。また、縦格子や竹垣風など背景のスクリーンフェンス自体のデザインで和を感じさせるのもよいでしょう。

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

YKK AP 「ルシアス スクリーンフェンス」

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

YKK AP竹垣風フェンス「麗」

4.植栽は「間」を大切に

日本庭園の植物といえば、門かぶりの松やシダレザクラ、まるく刈り込んだサツキなどをイメージされるでしょう。どれも和の趣を感じさせてくれるものですが、現代建築のデザインとのバランスがとりづらい場合があったり、メンテナンスについても住宅の庭で誰もが育てやすいものとは言えない面もあります。そこでおすすめなのが、モミジ、ソヨゴ、アオダモなどの繊細な枝ぶりの雑木風の樹種です。和風庭園の美しさのひとつは「間(ま)」、余白を生かすことにあります。
植栽を密植せずに樹形や草姿の美しい植物の自然の形を生かすことで空間の抜けが生まれ、軽やかで洗練された印象になるのです。

また、自然樹形が美しく紅葉の楽しみがあるジューンベリー、葉の形が特徴的で落ち着いた花色のクリスマスローズ、風になびく草姿が印象的なオーナメンタルグラスなど、外来種をうまく取り入れるとよりモダンな印象になります。

5.添景物で雰囲気をつくる

全体にシンプルな構成の庭に、和を感じる添景物を1点添えるだけでもぐっと印象が変わって効果的なワンポイントとなります。
例えば、灯篭、手水鉢、濡れ縁、ファニチャーなど。
気に入ったものをみつけたら、それを起点に庭のレイアウトを考えるのもひとつの方法です。

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

水鉢を庭のポイントに

3.和風の庭の計画の注意点

和風の庭を楽しむためにはいくつか注意する点もあります。

1.使い勝手に配慮する

住宅の庭は生活の場の一部であり、そこで過ごす、頻繁に歩くというケースも多く、使い勝手や安全性も大切な点です。例えば和風庭園でよくみられる飛び石は情緒を感じさせるものですが、アプローチのようによく歩く場所や高齢者、小さなお子さんがいる家庭では、つまずきなどの原因となり、使いやすいとは言い難くなってしまいます。生活動線やライフスタイルも考慮して計画しましょう。

2.メンテナンス

庭は整った状態でこそ美しいもので、どんなにすてきなデザインの庭もお手入れが行き届かずに荒れてしまえば心が落ち着く空間とは言えなくなってしまいます。砂利の下には防草シートを入れておく、手入れに入れる動線を確保しておく、狭小スペースの坪庭のように入りづらいような場所は頻繁に手を入れずにすむようできるだけシンプルな構成にしておく、などメンテナンスのことも併せて考えておく必要があります。

3.和庭で心安らぐ時間を

和風の庭の基本的な考え方や構成要素、様式など、決まりごとはいろいろありますが、住宅の庭で最も大切な点は住む人にとって心地よく過ごせる場所であることではないでしょうか。
ルールや固定概念にとらわれ過ぎず、伝統美のよさと現代風のアレンジ、バランスよく両方の「いいとこ取り」をして、今の暮らしに合った和風の庭を楽しめたら理想的ですね。

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

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著者プロフィール

モダンな建物にも調和する、現代風の和の庭デザイン

野中めぐみ 株式会社グリーンテリア
1級造園施工管理技士  福祉住環境コーディネーター2級

1級造園施工管理技士  福祉住環境コーディネーター2級 ハーブ園でガーデナーとして勤務したのち、E&Gアカデミーにて学びエクステリア業界へ。 エクステリア、ガーデンの専門店グリーンテリアに所属し主に設計を担当する他、植物に関するワークショップの開催など庭のある暮らしの楽しさを伝える活動も行う。 エクステリアプランナーとして様々な角度からみなさまの快適で豊かな暮らしにつながる情報をお届けいたします。

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